果物の酢

 お酢。基本調味料のひとつです。日本の酢は、たいていが穀物酢。米を原料にしたものが一般的でしょうか。最近はバルサミコやリンゴ酢もけっこう使われるようになりました。バルサミコやワインビネガーの原料はブドウ。ワインが変化したものですね。
 糖分を発酵させて酒をつくり、それを酢酸菌の作用で酢に変える。穀物の場合は麹などで、まずでんぷんを糖に変えます(日本酒など)。果物なら、そのプロセスが省かれる(ワインなど)。酒をそのままほっとけば酸っぱくなる。つまり酢ができます。
 先日、柿酢の仕込みをしました。柿でつくる酢。市販されているのかどうか、まだ店頭ではみたことがありません。手前味噌ならぬ手前酢。つくり方は簡単、というより原始的です。柿のヘタをとり容器に詰めるだけ。あとはときたまかきまぜるくらいのものです。柿に付着したり空気中に漂っている微生物が酢をつくってくれます。いまは工業的につくられている醸造食品も、最初はこうした自然のなせる業だったんでしょうね。酢の匂いがしてきたら、酒粕ならぬ酢粕を濾してしばらく熟成させればできあがり。この間数ヶ月ほどでしょうか。
 市販醸造食品の値段はピンキリです。昔ながらの方法でつくった商品は高い(たとえば丸大豆しょうゆ)。逆に合成酒もどきの商品は安い。味噌も味醂も酢も同様です。低所得者(プロレタリアなんて死語?)のわたしとしては、高額商品には手が出ません。かわりに自分でできるものはつくる。どぶろくも酢も味噌も、そんな思いで気まぐれにつくりはじめました。
 初めて柿酢づくりにチャレンジしたのは昨年です。知人から、普通は自然落下してしまう熟れすぎの柿を強奪。でも仕込んだのを忘れてしまい、気がついたときは水分が蒸発して干からびていました。完璧な失敗。完成の暁には、その知人に柿酢を一部差し上げるつもりでいたのですが、いまもシカとしたままでいます。
 今回の材料は戴き物ではなく購入しました。8個100円。柿は普通1個100円くらいしますが、売れ残って柔らかくなりすぎた見切り品です。酢の材料としては、このほうが糖分も多くていいらしい。無農薬なら皮を洗わずに使います。でも、たいていの市販品は農薬を散布しているはずなので、洗うと表面に付着した酵母も流されてしまう。今回は洗ったため少なくなった酵母を補うために仕方なくイースト菌を使いました(邪道かも)。
 写真は仕込んでから数日たったものです(ほんとはガラス瓶より、光を通さない甕のようなもののほうがいいらしい)。雑菌の繁殖を防ぐために容器は煮沸しました。それでもカビが発生する可能性はあります。虫がわくかもしれない。発酵と腐敗は紙一重ですからね。勢力の強い微生物が何になるかによって、ちゃんと酢ができるかどうかが決まってしまう。自然まかせのむずかしさでもあります。
 柿酢を仕込みながら、ふと考えました。小海でできる果物をつかって酢ができないか。柿も柑橘系も小海ではできません。できるのはリンゴ、プルーン、ブルーベリーといったところかな。
 リンゴ酢は、すでにあります。プルーンはどうか。ネットで検索したら、プルーン酢、たしかにありました。でもそれは、プルーンでつくった酢ではなく、酢に浸けた乾燥プルーンでした。健康食品として話題になっているみたいですよ。
 プルーンもブルーベリーも、それほど甘いものではない。酢の材料としては適切ではないのかも。ただ、商品にはならないもの、食べずに捨てられるような果物でも、加工することで使い道ができてくるような気もします。酢にするかどうかはとにかく、ちょっと考えてみたくなってきました。そういえば凍み餅も、もともとはクズ米の利用法だったらしいですから。