『「闇学」入門』 中野純著

 いきなりですが、ヒトの視覚には2種類あります。光感度は低いが色を識別できる明所視。超高感度だが色は識別できない暗所視明所視は焦点力、暗所視は全体視力といいかえてもいいでしょう。この2つは、そもそも視細胞自体が違う。
 そこで思い出したのが、宮本武蔵の「五輪書」に出てくる「見(けん)の目」と「観(かん)の目」です。両者は、それぞれ明所視暗所視にほぼ対応します。武芸者武蔵は観の目のほうを重視していました。たしかに1ヶ所に目の焦点を合わせていると、瞬間的な状況変化に対応できない。観の目は気配とか殺気を感じとる力、ひいては第六感ともつながっているような気もします。
 以上、『「闇学」入門』(集英社新書)からの受け売りでした。この本は「闇」の日本文化論ともいえる著作。日本でどれだけ闇が文化を育んできたか。日本人(ていうか近代以前の人類)は闇の達人でした。そして、その文化が今どれだけ失われ、ヒトが本来もっているはずの五感さえ衰えさせてしまったか。比喩的な意味も含めて、明るいことはいいことだ。そんな一種マインドコントロールを知らず知らずのうち受け入れてきた現代社会。
 遍く照らすはずの弘法大師空海でさえ、そんな事態は考え及ばなかったでしょう。明るさ、あるいは便利さと引き換えに失った大切なものを考えてみるときがきているような気がします。そんななかで『「闇学」入門』は、明るい未来ならぬ、文字どおり「暗い未来」志向の本でもあります。
 著者の中野純さんは、12月におこなわれる「ふたご座流星群と闇を浴びるツアー」で、星空を描きつづける画家・谷本清光さんと対談をされる方。闇歩き=ナイトハイクに関する本も何冊か出版されています。対談後に実施予定の闇歩きでは、眠っていた五感が呼び覚まされる!?
 ※ツアーの詳細や問い合わせ・参加申し込みについては八峰村ホームページhttp://koumiokosi.jimdo.com/特集をご覧ください。