「小海の伝統食」

 わたしが八峰村に参加してから生まれて初めて食べたもの――キクイモ、花豆、パンダ豆、エゴマ、ヤーコン、イワタケ、クリタケ、デコボー、ハクレイタケ、ルバーブ、ホウズキ、バナナ南蛮。ほかにも何かあったような気もしますが、いま思い出せたのはこれだけでした。とりあえず12種類。国内産純粋蜂蜜と塩茹で落花生を含めれば14種類になります。もし小海に来ていなかったら食べないまま生涯を終えることになるのかもしれません。
 これらの食品に共通すること。もちろん小海産ですが、それ以上に出所が明らかなことです。八峰村産は自ら関わり、他の食品は生産者名明記、そのなかには知り合いの名前もありました。
 逆に、工業的な加工食品の多くは出所を消すところに特色があります。原料の値段が上がれば別の産地から調達する。それでも商品名は同じまま。添加物の原料に何が使われているか、たとえば甘味料の原料がどこで獲れたトウモロコシだなんてことも通常はわかりません。どこの誰がという具体性を剥ぎ取られた抽象的な食品。わたしたちの食生活を、こうした抽象食品なしですますことはほとんど不可能になってしまいました。バーコードのついていない食品だけでは、まず暮らしていけない。すべての材料の身元がわかる食品なんて、家庭ではもはやおとぎ話の領域にあります。
 でも「おとぎ話」が跡形なく消えてしまったわけではありません。いま手元に「小海の伝統料理」という冊子があります。八峰村ツアーの合間に手に入れました。ツアー中にいただいた料理のレシピのいくつかも、この冊子に載っています。まとめたのは「食ネットこうみ」というグループ。松原湖畔のファミリーロッジ宮本屋の女将さんが代表を務めています。
 身元のはっきりした料理の宝庫、伝統食。地元の人にとっては、自ら栽培採集し、自ら調理した食べ物がほとんどのはずです。かつては、どこの家庭でも限られた材料を使って同じようなものを食べていた。でも、家庭ごとに微妙に味が違う。人が集まる席には、みんながそうした家庭の味を持ち寄る。先日の八峰村稲刈りのときも、ほとんどの方が食べ物を持ち寄り、分け合って食べていました。
 そうした日々の営みのなかから、必ずといっていいほど達人が生まれてきます。あの人のつくる、たとえば煮豆は別格だ。うまい! そんな評判・定評が仲間内から地域社会にまで広がっていく。もちろん小海にも達人がいます。ツアーで調理を担当してくださった方々も地元では名の知れた達人だと思います。味噌づくりや蕎麦打ちの達人も、まだ控えているらしい。
 先日の村長の記事には「小海田舎ミシュラン」のアイデアが載っていました。企画が実現すれば、伝統食の達人も数多く登場するのではないかと思います。
左は八峰村ツアー中にたばた館でいただいた花豆の煮豆。右は初めて挑戦した自家製、しょうゆは隠し味程度。艶がちがいますね。煮豆のむずかしさは聞き及んでいたので、これまでずっと手が出せないでいました。

※本日の小海を味わう「キムチのエゴマ白和え」材料=擂りエゴマ、絹豆腐、白菜キムチ(市販)、竹輪の細切り、砂糖、醤油、塩、胡麻油、コショウ。白和えは青菜を使うのが一般的ですが、キムチでもいけますよ。