石臼復活秘話―50年の眠りから覚めた日

 11/13深夜、梅爺が待望の石臼持参で小海にやってきました。もちろんソバ製粉用です。それぞれ直径30cm、高さ10cm、たぶん花崗岩製2個で1セット。重さはセットで20kgくらいになると思います。車から部屋の中まで運び込むだけで息があがるほどでした。梅爺いわく植木鉢の置き台に使っていたものだとか。泥だらけのまま運び込むところが梅爺らしさです。
 いつごろ製作されたものか不明ですが、たしか齢卆寿くらいになる梅爺のおふくろさんも使った覚えがないそうです、先代か先々代が知人から譲り受けた。当初は石臼本来の機能を果たしていたのでしょうが、お役御免は時代の趨勢でもありました。長期間お蔵入りしたあとの30数年前、家の新築に合わせて庭に置かれた。それが石臼にとって華麗なる転進あるいは新天地とよべるほどのものであったかどうかは知る由もありません。ひょっとしたら風雨にさらされる自然に戻ったのを喜んだのか。
 以来雌伏何十年、臥薪嘗胆、あるいは至福の時代を送ります。復活の時は持ち主というよりその取り巻きの気まぐれがキッカケになりました。とつぜん舞い込んだソバづくり。どうせなら石臼製粉で。といったのはわたしだったか別人だったか。
 宿泊先の山小屋オーナーとわたしは石臼を初めて目の当たりにしました。うれしそうに石臼をなでまわす姿は写真を見てください。上段の石には製粉物を投入するための穴、側面には回転用取っ手を差し込む穴、下面には回転軸を装着するための穴。擂り合わせ面には上下段の石とも擂り鉢より荒めの溝が刻まれている。中心部から外側に向かってやや傾斜がついているのは、砕かれた粉を落ちやすくするためでしょう。
 梅爺が持ち込んだのは石だけでした。回転軸も取っ手もなし。鉢台としては無用のものですからね。でも本来の石臼として使うためには軸も取っ手も新たに作らなくちゃならない。もともとどんな素材だったのかはともかく、手元にあるのは木材だけ。
 まずは山小屋オーナーがほろ酔い気分で軸をつくりはじめました。その辺に転がっていた硬そうな丸い木っ端を、溝の直径に合わせてノミで削っていく。当日はそこで作業終了。翌朝、作業を引き継ぎました。オーナーが工作したのは凸型に仕上げる軸の下段部分だけ。ノコギリで切り込みを入れてから上段部を削り落としていく。何度か石に差し込んで微調整を繰り返しながら一応の完成をみるまで20分ほどかかりました。
 その後は直売所の収穫祭に出向くため作業中断。山小屋に戻ってからさっそく試運転です。でもソバはゴミがまじったままなのでまだ使えない。代わりに中国産有機粳の玄米を挽いてみることに。取っ手はまだなし。臼の縁に手を当てて車のハンドルよろしく回していきました。思ったよりスムーズに回ります。
 玄米を臼に入れて回転させれば、すぐに粉となって出てくる。最初は安易に考えていました。ところが臼の縁からこぼれ落ちたのは、わずかに砕けた程度の、とても粉とはいえないシロモノ。粗い粒を再び臼に入れて挽く。何回この作業を繰り返したことか。30分以上臼を回し続け、ようやく粉とよべるまでこぎつけました。それでも口に含んでみるとざらつく。超粗挽きです。
 種まきから胃のなかに収まるまで、ものを食うということは大変な作業ですね。つくづく実感しました。肝心のソバのほうは、13日に扇風機を使ってゴミを吹き飛ばしました。でも小石などはまだ残っている。殻には泥がついている。臼で挽くまでには、まだいくつものプロセスが残っています。
 試し挽きした玄米は自宅に持ち帰ってから団子にして食べました。トッピングは砂糖と醤油で味付けした白ゴマあん。野性味たっぷりの滋味深い団子です。色はちょっと蕎麦みたいでした。
※本日の小海を味わう 「モチキビ入りごはん」 直売所で購入した小海産モチキビ(450g500円)を米にまぜて炊きました。雑穀ごはんということになるんでしょうね。キビを食べたのは初めてです。