オヤマボクチの食文化

 足りない凍み餅用ゴンボッパ調達を、さしあたってどうするか。そんな関心もあって、各地のオヤマボクチ事情を再度調べてみました。何より感じたのは、野生のオヤマボクチが稀少なことです。千葉県や四国では、レッドデータ絶滅危惧種第何類かに指定。商品化されているオヤマボクチ製品はほとんどが栽培種と言っていいと思います。
 もうひとつ印象的だったのは、全国各地でオヤマボクチを使った伝統食品の復活が試みられていること。名称の由来ともなった火口(ほくち=着火材)としてだけでなく、食材としても昔は当たり前のように使われていたようです。大切な自然資源のひとつだったんですね。
 食材利用で一般的なのは草餅の類でしょう。草餅といえば、まずヨモギを思い浮かべます。でもオヤマボクチの草餅も珍しいものではなかった。むしろヨモギよりおいしいとされてきた。飯舘の皆さんがヨモギではなくオヤマボクチの凍み餅にこだわるのも、そんなところに理由があるのかもしれません。長野県内でも鬼無里や辰野で行なわれた復活イベントの記事がネットにのっていました。
 草餅で有名なのは新潟県の笹団子ですね。あの緑色もヨモギだとばかり思っていました。でも、オヤマボクチの笹団子を商品化しているグループもあります。山形県では「ごんば餅」、山梨県では「うらじろまんじゅう」、埼玉県秩父地方では「のごんぼう餅」。いずれも草餅です。オヤマボクチの地方名もわかりますね(ちなみに東京都桧原村では「ネンネンボウ」)。日本だけでなく、韓国の世界無形文化遺産江陵端午祭」では蒸し餅スリチトクが欠かせない食べ物になっているとか。
 草餅で使うのは、たいていがオヤマボクチの若葉(凍み餅の場合は時期的な関係もあって乾燥葉)。これに対して蕎麦では、葉の綿毛部分を取り出してツナギにします。いわゆるボクチそば。長野県北部の冨倉そば(飯山市)や須賀川そば(山ノ内町)が本場とされていますが、今では全国各地にボクチそばを出す店があるようです。
 比較的新しい食べ方である蕎麦切り麺のつなぎは小麦粉が一般的でした。でも昔は北信地域で小麦を手に入れるのはむずかしかった。そのため苦肉の策としてオヤマボクチが採用された。そんな話も残っています。地域にあるものを活かす知恵。
 北信に隣接する新潟県側ではフノリ(これをつなぎに使っているのが「へぎそば」)とともにオヤマボクチも合わせて使っている地域があるみたい。いわばボクチそばとフノリそばの混合地域ということになりますね。